こんにちは。(株)高橋翻訳事務所で医学および音楽の分野を担当している池上です。
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(John Surman)画像参照BBCより |
私はコントラバスという大きい楽器を弾いています。持ち運びのできる楽器としては最大級でしょう。当然のことながら、いつもは自分の楽器を使っています。しかし海外で演奏するときには、空輸用のケースの手配など、いろいろと大変なことが多いので、ほとんどの場合は行った先で楽器を借りています。 もちろん可能ならば自分の楽器を持って行きたいのですが、仮に持っていく算段をつけられたとしても、どうしても避けられない「最後の関門」があります。空港職員の荷物の扱いの荒さです。
イギリスにバリトン・サックス奏者のジョン・サーマン(John Surman)という人がいます。バリトン・サックスというのは、写真を見てもわかるように、サックスとしてはかなり大きい部類に入ります。飛行機で移動するときには、機内に持ち込むことはできません。あずけることになります。
このサーマンの最近のCDで、アメリカのジャズマンたちとニューヨークでレコーディングした『Brewster’s Rooster』という作品があります。このCDのブックレットのクレジットの部分に、こんなサーマンの言葉が書かれています。
Many thanks to saxophone repairman Tim Barcone for his splendid work restoring my
baritone sax to playing condition after it had been so badly handled by the airlines on the
trip over to the USA
(アメリカに渡航の際、航空会社にひどい扱いを受けた私のバリトン・サックスを演奏できる状態にしてくれたリペアマン、ティム・バーコンの素晴らしい修復作業に大いに感謝します)
この一文を読んだとき、同じ演奏者として私はゾッとしました。航空会社の職員の荷物の扱いというのは、本当に荒いのです。「Fragile」のステッカーを貼っていてもおかまいなし、ということも珍しくありません。楽器は特にデリケートですから、荒っぽい扱いを受けたらひとたまりもありません。このサーマン氏だけでなく、私の周囲でも飛行機にのせたときに楽器を壊されたという話は枚挙に暇がありません。
バイオリンやフルートのように小さい楽器なら機内に持ち込めますが、大きい楽器だとそうは行きません。また911以降は機内への荷物の持ち込みはかなり厳しくなっていますので、以前なら持ち込めたものが今は断られる、という例も少なくありません。
ひと昔前には、ドイツのルフトハンザが広告に「ベルリン・フィルのコントラバスを運ぶことは私たちの誇りです」などというコピーをのせていたりもしたのですが、それも今は昔の話です。演奏家には苦労のたえない時代になりました。
(株)高橋翻訳事務所 医学翻訳・音楽翻訳担当:池上 |