こんにちは。轄kエ翻訳事務所で学術論文翻訳を担当している平井と申します。
分子生物学やバイオテクノロジーをはじめとする生物学全般に関する翻訳や、医学論文、生化学、ライフサイエンスに関する翻訳など、生物学や医学において、複数の分野にまたがる翻訳も扱っています。指名でのご依頼もお受けしておりますのでご相談ください。
エコノミークラスの座席(economy-class section)は狭いため、長時間同じ姿勢で座り続けることになります。血液は重いので、足を下にして座っていれば、下肢に溜まりやすい状態になります。また、座った姿勢では股関節と膝関節をそれぞれ曲げた状態になりますが、血管も曲がった状態になるために圧迫を受けます。さらに、お腹の臓器の重さも足から下腹部へ上がってくる静脈を圧迫し、シートベルトをきつく締めすぎれば、お腹の圧迫から静脈を圧迫することになります。血液が溜まった状態で、静脈を圧迫するわけですから、うっ血が起こり足の血流が悪くなります。
動脈より送られた血液は、毛細血管を通って静脈に集まります。下肢の静脈に集まった血液は、足を下げた状態では、順次上の階に押し上げられるようにして、お腹を通り心臓の右心房へ戻っていきます。静脈には一定の間隔で弁があり、そこで血液がせき止められて、元に戻らないようになっています。このとき足を動かすと、静脈は足の筋肉の収縮により揉まれて、血液はより上に押し上げられます。しかし、座ったまま足を動かさなければ、血液は停滞します。
機内の湿度は、結露(dew condensation)を防ぐために、通常20%程度と低く保たれています。この湿度では皮膚から奪われる水分の量が増え、気がつかないうちに脱水となります。つまり、循環する血液が濃くなり、それだけ血液が固まりやすくなるのです。また、機内でアルコールを飲む人も多いようですが、アルコールも脱水をもたらします。血中のアルコールやその代謝産物であるアセトアルデヒドも薄めるために、細胞から水が移動するからです。アルコールには抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone)を抑えて、利尿を促す働きもあります。
こうして見ると、エコノミークラスの座席で長時間の飛行をするという状況は、下肢の深部静脈に血栓ができやすい条件がそろっていることになります。深部静脈血栓を予防するために、「アルコールを控えめにして、水分を十分に摂取すること」「同じ姿勢を続けずに、適度に身体を動かすこと」「下肢の筋肉の収縮と弛緩を繰り返すような運動をすること」などが勧められる意味もわかりますね。
下肢の静脈に血栓(blood clot)ができただけでは、身体に大きな影響はありません。しかしエコノミークラス症候群では、空港について歩き始めると、いきなり具合が悪くなり、場合によっては急死してしまうのです。これは下肢の深部静脈にできた血栓が、歩き始めて筋肉に揉まれることで壁からはがれ、塞栓(embolus)となって肺静脈に詰まってしまうからです。これを医学用語では急性の肺動脈血栓塞栓症(pulmonary artery thromboembolism)といいます。
エコノミークラス症候群は、エコノミークラスの乗客だけでなく、ファーストクラスの乗客でも、夜行バスの乗客でも、タクシーの運転手でも、安静を強いられている入院患者でも、長時間水分を取らずに動かない状態にいる人ならば誰にでも起こりえます。
轄kエ翻訳事務所 学術論文翻訳担当:平井 |